アブドミナル&サイ

今のぼくの状況を簡単に説明しよう。
手を頭の後ろに組んで、こめかみに銃口をつきつけられている。
なんともわかりやすい人質の姿勢だ。

たまたま公園で休んでいると、逃走中の犯人がやってきて、ぼくを人質にとった。
周囲にはたくさんの警察官、パトカー、野次馬で溢れている。
犯人が何をしたのかは知らない。というか、そんなことを気にしている余裕がない。
ぼくの心は千々に乱れている。今にも大声で叫びながら走り出してしまいたい気分だ。
しかし、それも出来ない状況だ。一体ぼくが何をしたというんだ。どうしてこうなった。
考えれば考えるほど、思考は一つの結論に収斂していく。

死にたい。

それしかない。いっそ殺してくれ。
どうしてこうなった。
どうしてこうなった。



テレビの占いがキッカケだった。
乙女座のラッキーアイテムは勝負下着。男に勝負下着なんてないだろう。
随分と視聴者を限定した占いではないかと鼻で笑ったのだが、ふと思い出した。
友人が悪ふざけで誕生日プレゼントにくれた男性用ブラ。
当然ながら未開封で、タンスの奥で埃をかぶっていた。
強いていうなら、ぼくの勝負下着はこれかな。
好奇心、魔が差した、神のお導き、理由はなんとでも言える。
ぼくは、ブラを着用して外出した。
遠出をする気はもちろんなく、近くの公園をただブラブラしていただけだ。
ブラを着用してブラブラとは、最低の休日だ。

そうして今の状況に陥ってしまったわけだ。
占いでは「素敵な出会いがある」と言っていたが、まさか犯罪者との邂逅とはな!
まさか、白いシャツの下の黒いブラがこんなにもスケスケとはな!


死にたい。


こんなに恥ずかしいことがあるだろうか。
手を頭の後ろで組むという、ちょっとしたセクシーポーズを強要され、あまつさえ胸を強調されるような格好だ。
ブラを見てくださいと言わんばかりの格好だ。

それだけじゃない。
こんな状況だ。誰だって汗をかく。生死がかかってるうえに羞恥プレイだ。
ワキは汗だくだ。するとどうなる? 白いシャツはワキだけ異様にスケスケだ!
しかも、あまつさえワキを強調するような格好だ!

それだけじゃない。
ぼくの真正面にいる婦警さんがしゃがんで何か作業をしている。
パンツが丸見えで、ぼくの心のやらかい場所を今でもまだしめつける。
あのころの未来にぼくらは立っているのかなぁ?
勃っているんだよ!

セクシーポーズでスケブラ、ワキ汗、フル勃起。
この状況を警察官に見られるだけならまだいいだろう。
しかし現実は!ご近所さんの野次馬が!さっき到着したテレビカメラが!

父さん母さん、ごめんなさい。

今頃テレビの前でお茶でも噴いてるかもしれないね。
あぁ、しかも天を指すムスコの頂点に、モンシロチョウが……。


死にたい。


殺せー! 殺してくれ!
どうしてこうなった。
どうしてこうなった。
誰が悪いんだ。
何が悪いんだ。

ブラをくれた友人が悪いのか?
いいや、あいつはユーモアセンスが溢れているだけさ。

占いが悪いのか?
いいや、占いは平凡な日常のスパイスを提供してるだけさ。

じゃあやっぱり、お前が悪いんだ。
お前が悪いんだ。お前が悪いんだ。

「おい、喋るな」
「お前が悪いんだ」
「なに?」
「何をしたってな、全部自己責任なんだよ! 甘えるな! 人のせいにするな! 被害者ぶるな! お前が被害者なら、加害者もお前だ! バカ!」

ぼくは犯人の腕に間接技を決めた。
刹那、警察官が一斉になだれこんでくる。
犯人はあえなく御用となった。

この模様は当然ながらテレビで流れたのだろう。
ブラ着用ワキ汗勃起モンシロチョウ男の説教が全国に中継されたのかはわからないが、そんなのはどっちでもいいさ。全部自己責任さ。お前が悪いんだ。そう、お前が悪い。


後日、警察から表彰を受けた。
その際、パンツを見せていた婦警さんに「カッコよかったです」と告白され、付き合うことになった。占いもバカに出来ないものだね。

この時ばかりはこう思った。
生きてて、良かった。



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