朝まで眠り姫

美しき姫よ。貴女を目覚めさせるには、王子である私が口づけをするしかないそうです。
愛する姫よ。愛しているからこそ、私は貴女の幸福を願うのです。
だから考えるのです。このまま眠っていた方が幸せではないのかと……。


『激論!眠り姫を起こすことが幸せか!』
(論客:王子、小人A、小人B、小人C、小人D、小人E)


王子
「我が国の将来は危機的状況にある。そんな中、果たして姫を起こすことが彼女にとって幸せなのだろうか。何より、彼女が眠り続けた100年間に世界は急速的な変貌をとげている。変化に対応するだけでも彼女の心身的疲弊はすさまじいことだろう。彼女の幸福を考えるのなら、このまま眠り続けた方が幸せなのではないか?」

小人A
「確かに国は問題が山積みですが、それは政治を行う王子がどうにかすればよい問題であって姫の幸福には直接的な関係はないのではないですか」

小人B
「関係するよ。王子は姫と結婚したいんでしょ? 結婚すれば姫だって政治やんなきゃなわけだし、少なくとも気苦労は絶えない人生になるだろうね」

小人C
「幸福というのは比較対象があって成り立つ概念であって、何と比較して幸福かを定義するのが先じゃないですかね。そうでなければ議論したところで意味がないですよ」

小人D
「比較対象は決まっておるじゃろ。眠り続ける方と、目覚める方じゃ」

小人C
「眠り続けるという状態は仮死といっても過言ではないですよね。死んでいる者に幸福の概念を適用すること自体が出来ないわけですから、それでは比較の対象になりませんよ」

小人B
「なら答え出たんじゃない? 眠っている者には幸福がないのだから起こせばいいよね」

小人D
「同時に絶望もないのじゃから裏返せば幸福ととらえることも出来るじゃろ」

王子
「私が言いたいのは比較によって生まれる相対的幸福ではなく、姫が感じる個人的幸福だ。どれほど辛くとも彼女自身が幸せと感じるのならそれでいい。しかし彼女に幸福とはなにかを問うことが出来ない状況なので困っている」

小人A
「王子は国の将来に不安を感じているわけですよね。それに姫を巻き込みたくないと。具体的に何を危惧しているのか仰って頂けますか? それが今後改善出来る、または王子の杞憂であれば、一般的な幸福には近づくわけですから」

王子
「一番の危惧は人口の減少。少子化が進む今、雇用の問題にも関わってくる。それを後押しする問題が三点。一つは東の森に出現した史上類をみない巨大な魔物だ。魔物は人を襲う。魔物を怖れ森に近づくことが出来ず、林業に深刻なダメージを与える。討伐隊を向かわせることは可能だが、勝算はないし、倒せたとしても大量の死者は出るだろう。人口の減少を促進させ、加えて優秀な人材を失うリスクを伴う。魔物を倒した際に起こる生態系の変化なども懸念されているがそこらへんは調査中だ。つぎに自殺者の増加。絶望を感じた者──特に若年層──が魔女の作った毒リンゴを自ら食べる事態が多発している。これも人口減少を促進させ、大切な労働力である若い力を失うことになる。最後に、そんな我が国を見限った者による他国への移住だ」

小人B
「終わりじゃん」

小人A
「そう結論付けるのは早計ではありますが、確かに終わりは見えていますね」

王子
「それほど絶望的な状況で姫を起こすことが幸福かどうか……」

小人D
「まるで人ごとみたいに言っておるが、そんな危機的状況を招いたのは王子含めた政治を行う者達じゃないのか! 問題点ばかり並べないで対案を出せ!」

小人C
「貴方こそ、まるで人ごとみたいに言ってますが、国の問題はみんなの問題ですよ? 責任の押しつけだけして、自分で考えることはしないのですか。あと、対策を出すためにも問題を検討することは必要不可欠です」

小人B
「少子化が問題って言うなら、姫を起こしてぽんぽん子供作ればいいじゃん」

王子
「ずっと黙っているが……あなたはどう思う? なるべく多くの意見が欲しい」

小人E
「バカばっかりだなと思って聞いてたよ。姫の幸福? そもそも論点がおかしいのさ。いや、議論する必要すらない。姫を起こさないのは見殺しにすること。殺人だ。倫理が問われてるのさ。ここで姫を殺し、それが外部に知れ渡れば王子の支持率は低下。王位継承すら危ういね。王子の立場からすれば初めから道は一つしかないんだよ」

王子
「……その通りだな」

小人E
「王子が今まで国のことだけを考えて生きてきたことオレ達は知ってるよ。恋愛もせずにね。そんな恋愛初心者にアドバイスだ。なにがあっても幸福にする強い気持ちで姫を起こせ。姫が幸せになるんじゃない、あんたが幸せにするんだよ。それくらいの覚悟がなきゃ話にならない」

王子
「言葉もない」

小人B
「決まりだね。じゃあいくよー! せーのっ」

小人たち
「「それキース! キース! キース!」」

王子
「ちょ、ちょ、やりにくいわー!!!!」

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