repeat after me?

メゾン・ド・レミ~304号室~


最初は後輩のアグリ君と部屋で酒盛りをしていたときのことだった。

(ドンッ ドンッ)

隣人が壁を叩いて威嚇してきた。
このとき俺らは「ポニーテールで叩かれたいか縛られたいか」という議題について熱い討論を繰り広げていたので少々うるさかったのだろう。
(ちなみに俺は叩かれたい派、アグリ君は縛られたい派だ)

壁を殴る隣人はいけ好かないが、こちらが騒いでいたのは事実なので我々は反省し、数分沈黙したのち小声で討論を続けた。
朝までかかって二人で出した結論は「縛られたうえで叩かれよう」だった。


二回目は後輩のアグリ君と部屋で酒盛りをしていたときのことだった。

(ドンッ ドンッ)

隣人が壁を叩いて威嚇してきた。
このとき俺らは「ポニーテールで縛ると叩くことができない」という議題について頭を悩ませていた。
騒いだつもりはないがお酒も入ってたので声量調整がうまくいってなかったのかもしれない。
我々は反省し、数分沈黙したのち小声でアイディアを出し合った。
朝までかかって二人で出した結論は「ポニーテールが二人必要」だった。


三回目は一人で読書をしていたときだった。

(ドンッ ドンッ)

隣人が壁を叩いて威嚇してきた。
このとき俺は101号室の真田さんに貸りた「サラダ記念日」を読んでいた。
静かにしているのに壁を叩くとはなにごとだ! 今度ばかりはこちらに非はない。
俺はムッとして壁を叩き返した。ドンッ ドンッ

(ドンッ ドンッ)

ムキー! ドンッ ドンッ

(ドンッ ドンッ)
 ドンッ ドンッ

(ドンッ ドンッ ドンッ)
 ドンッ ドンッ ドンッ

(ドンッ ドンッ ドドンッ ドンッ ドンッ ドドンッ)
 ドンッ ドンッ ドドンッ ドンッ ドンッ ドドンッ

いつのまにか向こうのリズムをこちらが同じように叩き返す、というルールができていた。
ビートマニアの「DJ BATTLE」を思い出しながら俺はリズミカルに叩き返した。


ピンポーン


チャイムが鳴った。
壁叩きを中断しドアを開けると、アグリ君が立っていた。

「せ、先輩なんで頬を赤らめてるんですか! まさか僕が美少年だからって……」
「いや、運動を少々な」
「運動?」
「壁セッションだよ」

アグリ君を部屋に招きいれた。
当然ながらこの闖入者のせいで壁セッションは終了していた。楽しんでいたので少し寂しい。
俺はアグリ君にことの顛末を語った。

「なるほど、隣人が壁を叩いてきたからやり返したら延々と続いたと」
「途中から強弱までつけ始めて難易度が上がったよ。まぁ完璧に返したけどな(ニヤリ」
「あれ、でも、隣って」
「ん?」
「空き部屋じゃなかったですか?」
「…………」
「…………」
「僕、帰りますね」
「アグリくぅーーーん! 今日は泊まっていきなよぉーーう!」
「すいません、明日早いんで。じゃあまた」
「ちょ、ほら、なんか用事あって来たんでしょ?」
「あ、そうそう、そうだった」
「なに?」
「ポニーテールが二人いなくても、ツインテール一人いれば解決じゃないですか?」
「帰れ」


アグリ君が帰って一人ぼっちになった。
サラダ記念日の続きを読もうとするが、全然頭に入らない。
隣が空き部屋? そうだっけ? 他の部屋のことなんて知らない。
そもそも空き部屋だとしたら、俺は一体だれと壁セッションを……

(ドンッ ドンッ)

ひぃぃぃ! なにゆえっ!

(ドンッ ドンッ)

ひぃぃぃ!

(ドンッ ドンッ)

ひぃぃぃ!

(ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ)

……だんだん腹が立ってきた。なぜ静かにしてるのに壁叩かれなきゃならんのだ。
文句あるなら正面きってこいやぁぁあー! このネクラ野郎がぁぁぁああーーー!


ド ゴ ン ッ ! !


俺は渾身の一撃を壁に放った。
音速を超えた拳、響き渡る轟音、砕け散る壁。

…………。

そして、砕けた壁の向こうに、ポニーテールの女性。

「は、はじめまして」
「は、はじめまして」

初対面の挨拶までもがオウム返しだった。




その後、当然ながら壁は修復された。
隣(303号室)には人が住んでいた。空き部屋は逆隣(305号室)だった。
ついでにいうと、俺らは付き合うことになった。お互い一目惚れだった。

二人には自然とルールができた。
どちらが言い出したわけでもない。
お互いの部屋を訪ねるとき、チャイムは使わないこと。

(トンッ トンッ)

今日も玄関から心地よい音がする。

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