花岡さんの恋愛五箇条

メゾン・ド・レミ~303号室~


今のわたしには武器が必要だ。
素手は無理、新聞はとってない、スプレーは自分が吸い込んでしまいそうでイヤ。
となると、やっぱりアレしかないわね。

ハンマー。

ふふふ、申し分のない殺傷力。
わたしは上段の構えをとり、壁に張り付いている虫に向って振り下ろした。

ドンッ

逃がした。もう一回。

ドンッ

なかなか敵は素早い。

(ドンッ ドンッ)

隣人が壁を叩いて威嚇してきた。
虫退治に夢中で隣への迷惑を考えていなかった。
すいません……。でも、虫は放っておけない。
退治したら謝りにいきます。だから今は許してね隣人さん!

 ドンッ ドンッ
(ドンッ ドンッ)

 ドンッ ドンッ
(ドンッ ドンッ)

 ドンッ ドンッ ドンッ
(ドンッ ドンッ ドンッ)

敵将、討ち取ったりーー!
よかった、これで安眠できる。

…………。

 ドンッ ドンッ ドドンッ ドンッ ドンッ ドドンッ
(ドンッ ドンッ ドドンッ ドンッ ドンッ ドドンッ)

や、やっぱりマネしてるんだわ!

それからわたしは面白がって適当なリズムを壁に刻みました。
相手が完璧に返してくるのが悔しくもあり、心地よくもありました。
しかし、それもそう長くは続かず、返事がこなくなりました。
飽きてしまったのでしょうか。私は勝手に楽しんでいたので少し寂しくなりました。

あぁ、それにこんなことをしては、謝りに行くに行けない……。
てへへ、大失敗☆ と頭をコツンッとやったらハンマーで殴ってしまい悶絶するありさま。
その時でした。討ち取ったはずの敵将がまた動き出したのです。
ぐぬぬぬ……全てお前のせいだーーーーー!!

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

わたしはモグラ叩きならハイスコアが出る勢いでハンマーを一心不乱に振り続けました。
それでも敵は素早く、なかなか仕留められません。
ハァハァ。落ち着いて。深呼吸。私は気を集中し、全身全霊を込めた一撃を放ちました。
ちぇすとおぉぉぉぉぉおぉおおおおおおおお!!!!!


ド ゴ ン ッ ! !


今度こそ敵を討ち取りました。
ついでに、壁も砕けました。

…………。

そして、壁の向こうに、正拳突きの姿勢で固まっている男性。

「は、はじめまして」
「は、はじめまして」

初対面の挨拶までマネされました。




わたしたちはお付き合いをすることになりました。お互い一目惚れでした。
でも、彼には秘密にしていることがあります。ハンマーのことです。
彼は自分のパンチが壁を砕いたと思い込み、さらにはそれを誇らしく思っているようです。
真相はわかりませんが、たぶんハンマーの力も加わってのことでしょう。
わたしがハンマーのことを話してしまうと、彼の自信はあの壁のように砕かれてしまいます。
それにハンマーを振り回す女はイヤでしょう?

1. 男を立たせる
2. 少しの秘密は愛嬌

彼は「今度虫が出たら俺を呼べ」と言います。
自分で倒せなくもないのですが、それからは虫退治は彼にお願いしています。

3. 男は頼りにされると喜ぶ
4. 守りたくなるような女を演出

あと、なぜかポニーテールを要求してきます。
けれどわたしはその要求に答えません。

5. 出し惜しみする

これだけ策を弄しているのは、彼を好きだからこそですよ。
だって、彼と出逢ったときの衝撃は、まるでハンマーで殴られたかのようでしたから。

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