普通が一番

メゾン・ド・レミ~204号室~


この体質で得をした覚えなんてない。
夜道で追いかけられたり、寝てるとき上にのしかかられたり、どちらかといえば迷惑してる。
普通が一番なんていうけど、まさにそうだと思うんだよね。普通が一番!




先輩がいつになく興奮しながら部屋にきた。

「俺のパンチは壁をも砕くらしい……世界、狙えるかもしれん」

ついに脳まで酒浸しになったかと合掌しかけたが、どうも酔っ払ってる感じではない。
運動神経だけは野生児並の人だから、力はあるんだろうけど、壁を砕くなんてまさかね。
とりあえず現場となる先輩の部屋へ移動することにした。

「うわぁ……」

たしかに壁は崩れていた。
ダンボールで塞がれていたけれど、辺りに散らばる壁だったであろうものが物語っている。
この先輩は、壁を、ぶち壊したのだと。修理費いくらするんだろう。

「アグリ君」
「お金なら貸しませんよ」
「違う。この壁と関連することなんだが……」
「なんですか?」
「彼女が出来た」

呪いの札を、介の字貼り!!

はっ。突然のカミングアウトに驚いて呪い殺そうとしてしまった。いかんいかん。
先輩から詳しい事情を聞く。壁を壊してお互い一目惚れ? なんじゃそりゃ。
相手は303号室の花岡さん。う~ん。話はわかったけど、一つひっかかることが……。
まぁでも先輩は気づいてないようだし、内緒にしときますかね。




後日、僕は大家さんを訪ねた。
大家さんは最上階に住んでいる性別も年齢も不明な謎の人物だ。
見た目はまんまレミングス。ゲームと違うのは長生き(多分)なところくらいか。

「305号室?」
「はい。たしか空き部屋ですよね?」
「そうさ。あそこは空き部屋さ」

先輩の部屋で酒盛りをしていたときのこと。
ドンッ ドンッ と隣の部屋から壁を叩かれたことが2回あった。
白熱した議論を交わしていたのでうるさかったのだろうとその時は思った。
壁を叩いたのは、明らかに305号室の住人。しかし305号室は空き部屋だった。
僕はこの話を大家さんに語った。

「クックック。あそこには座敷童子が棲んでいるのさ」

大家さんの話では、座敷童子はこの建物の守り神的存在らしい。
壁叩きは「自分も酒盛りに混ぜろ」という意思表示だったのではないか、ということだ。
なんてこった。幽霊部屋なら口止め料として家賃安くしてもらおう作戦は失敗に終わった。




僕は大家さんに頼み鍵を貸してもらい、一升瓶を抱えて305号室を訪ねた。

この体質で得をした覚えなんてない。
幽霊に夜道で追いかけられたり、妖怪に寝てるとき上にのしかかられたり。
昔から人ならざるものが見えたし、モテた。どちらかといえば迷惑していた。
でもまぁ、今はその体質のおかげで、こうして飲み友達が増えたわけで。
普通じゃないのも、まぁいいかな、と思うことにする。

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