九の涙

突如として現れた幽霊に人々は目を奪われた。

幽霊は人間一人に対し一体出現したようであり、全ての人の目の前にそれは現れた。
幽霊は全員同じ顔をしていた。どこかで見たことのある顔だ、と思った人もいたが
いきなり人口が倍になった意味不明な状況を理解できる者はいなかった。
人々は精一杯目を丸くした。通勤中のサラリーマンも買出し中の主婦も、授業中の学生も。

幾億もの幽霊はゆっくりと空へ昇っていった。
同時に聴き覚えのあるメロディが人々の耳に入った。

上を向いて歩こう 涙がこぼれないように♪

幽霊が歌っていた。
歌いながら幾億ものそれは天に吸い込まれていった。
人々はただ呆然と見守るしかなかった。


あっという間の出来事だった。
人々はしばし停止したが、すぐに日常に戻った。
通勤中のサラリーマンは下を向き、携帯ゲームを始めた。
買出し中の主婦は下を向き、携帯電話を操作し始めた。
授業中の学生は下を向き、教科書とにらめっこを始めた。
幾億もの幽霊は下を向き、その光景を俯瞰していた。

幸せは雲の上に 幸せは空の上に♪

幽霊は上を向きながら歌い出した。
その日、世界に雨が降った。

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