鳥になりたい人

「鳥になって大空を飛びたい」的な歌詞ってあるでしょ? あれなんか違うと思うんだよね。空を飛びたいという願望はいいよ。わかるよ。私も舞空術超練習したもん。でも鳥? 鳥になりたいの? 鳥類希望なの? 手段と目的がごっちゃになってると思うのよ。目的は空を飛ぶことであって、鳥になることじゃないもん。翼をくださいはいいのよ。目的の為に翼という手段を求めてるから論理的。でも鳥? 鳥になったら自分じゃなくなるわけでしょ? それでいいの? 空を飛びたいって歌詞は比喩表現なんでしょ。今の自分に空を飛ぶような強さが欲しいとか、そういうことを歌ってるわけでしょ。あくまで自分を保ちつつプラスアルファを求めてるわけよね。なら鳥になっちゃダメじゃん。鳥になりたい人なんているの?

 
と思ってたんだけど、いたわ、鳥になりたがってる人。
うん。ホリケン。え? そう。ネプチューンの。ホリケン。

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九の涙

突如として現れた幽霊に人々は目を奪われた。

幽霊は人間一人に対し一体出現したようであり、全ての人の目の前にそれは現れた。
幽霊は全員同じ顔をしていた。どこかで見たことのある顔だ、と思った人もいたが
いきなり人口が倍になった意味不明な状況を理解できる者はいなかった。
人々は精一杯目を丸くした。通勤中のサラリーマンも買出し中の主婦も、授業中の学生も。

幾億もの幽霊はゆっくりと空へ昇っていった。
同時に聴き覚えのあるメロディが人々の耳に入った。

上を向いて歩こう 涙がこぼれないように♪

幽霊が歌っていた。
歌いながら幾億ものそれは天に吸い込まれていった。
人々はただ呆然と見守るしかなかった。

 
あっという間の出来事だった。
人々はしばし停止したが、すぐに日常に戻った。
通勤中のサラリーマンは下を向き、携帯ゲームを始めた。
買出し中の主婦は下を向き、携帯電話を操作し始めた。
授業中の学生は下を向き、教科書とにらめっこを始めた。
幾億もの幽霊は下を向き、その光景を俯瞰していた。

幸せは雲の上に 幸せは空の上に♪

幽霊は上を向きながら歌い出した。
その日、世界に雨が降った。


レンコンは電気羊の夢を見るか

大戸屋である。
鶏と野菜の黒酢あん定食である。

運ばれてきた定食、彩られた野菜たち。
ナス、にんじん、じゃがいも、ピーマン、そしてレンコン。
レンコン。レンコン。れんこんレンコン蓮根レンコン!

レンコンを連呼んしていた僕は、不意に違和感に抱きしめられた。
違う。こいつはいつものレンコンじゃない。何かが……。

 
僕は今年に入ってから既に大戸屋ポイントカードを3枚貯めたほどの大戸屋ユーザー。
中でも鶏と野菜の黒酢あん定食は指名率No.1。業界トップシェアを誇るメニューだ。
幾度となく触れ合ってきたレンコン。触れ合うどころか食らってきた。
レンコンは僕の一部となり、僕の一部はレンコンなのだ。
それなのに、レンコンに違和感を覚えるなんて初めてだ。

おかしいのはどっちだ。僕か?レンコンか?
レンコンに違和感を覚える自身に違和感を覚えているのか。
それともやはり、レンコンの身に何かが起きているのか。

 
凝視。
見極めてやる。
違和感の正体を。

 
そして僕は気づいた。
あぁ、このレンコンは……叫びだ! ムンクの叫びにソックリなんだ!

「世界一ムンクの叫びに似たレンコンを食べた男」の誕生である。
僕はこのことを誇りに思うし、世界中の人に知ってもらいたい。
僕こそ世界一ムンクの叫びに似たレンコンを食べた男だぁあああああ!
そう叫びたい。

 
しかし、違和感は僕に抱きついたまま離れようとしなかった。

 
どういうことだ?
違和感の正体は叫びだろ。それで解決だ。
まてよ……レンコンは2切れある。
まさか、もう一切れにも違和感が……?

再凝視。
そして僕は気づいた。
あぁ、このレンコンは……木霊だ! もののけ姫のこだまにソックリなんだ!

「世界一もののけ姫の木霊に似たレンコンを食べた男」の誕生である。
僕はこのことを誇りに思うし、世界中の人に知ってもらいたい。
僕こそ世界一ムンクの叫びともののけ姫の木霊に似たレンコンを食べた男だぁあああああ!
そう叫びたい。

 
そして、叫びは、こだまする。


置手紙

マサラ:「おいみんな大変だ! テーブルの上に置手紙が!」

 
『マサラへ
 捜さないでください。母より』
 
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私が眼鏡をしない理由

「ねぇ、どうしてメガネしないの?視力悪いのに」

「高いからよ。皆がリサの家のようにお金持ちじゃないのよ?」

嘘だ。私が眼鏡をしないのは汚いものを見たくないから。
私の世界にはボヤけた輪郭が丁度良い。
汚いからモザイクがかかっているのだ。
わざわざそれを取り除く必要なんてない。

「えーでも不便じゃない? それに今日席替えあるし、後ろになったらどうするの? 黒板見える?」

「リサのノートがあるから大丈夫よ」

「ちょっとー! 人のノート当てにしないでよぉー!」

可愛くて、丸くて、女の子の字。
リサの字。リサのノート。

『おーい席つけー!HR始めるぞー!』

隣の席のリサ。
ボヤけていてもわかるよ。
うっすら紅色に染まる頬。
トボけたってわかるよ。
リサが誰を好きなのか。

私が眼鏡をしないのは嫌なものを見たくないから。
あの人の顔を見たくないから。
私が眼鏡をしないのは好きなものを見たくないから。
リサの顔を見たくないから。

可愛くて、柔らかくて、女の子のリサ。
リサの顔。リサの身体。リサの。

私が眼鏡をしないのは汚いものを見たくないから。
私の心にはモザイクをかけていたいから。

 
だから世界は、ボヤけたままでいい。


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