逆鱗

海岸近くの樹に寄りかかり読書をしていた。
穏やかな風と波音が心地よく、うたた寝をしてしまった。
数分、だろうか。地の震えを感じ目を覚ますと、人影が私の上に落ちている。
覚えていない夢の余韻を引きずりながら、私は人影の主を見た。
美しい女性が立っていた。
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龍の選択

「パンツが、消えちゃった……」

 
その日は暑くも寒くもなく、晴れでも雨でもなく、店内で流れている曲は良い曲でも悪い曲でもなく、しかしながら僕の隣にいる彼女は汗を滲ませ、今にも降り出しそうな苦悩の表情を浮かべながら、両手で耳をかるく塞いでうつむいている。

穿いていたパンツが突如として消失した。
彼女の話を端的にいうと、そういうことらしい。
からかっているわけでも、嘘をついているわけでもないのは彼女を見れば一目瞭然だった。

彼女が突然ファミレスへ入ろうと言い出したのが30分前。
入店後すぐに化粧室へ飛び込んでいったのが25分前。
苦悩の表情で席に戻り、冒頭のセリフを告げたのが3分前。
彼女が泣いたこと、泣いて落ちた化粧を直したことに僕が気付いたのもやはり3分前だった。

「穿いてたんだよ、絶対。それが歩いてたら急に変な感じがして、トイレで確認したらやっぱりなくて……ごめんマジ意味わかんないね。あたしも意味わかんない。意味わかんない……」

彼女のパンツが突然消失した時、なんと声をかければいいのだろう。
きっとどの雑誌や教科書にも載ってなくて、セオリーや文化もない。
それならば、僕は僕の言葉で何かを言ってあげなくては、と思った。

「神隠しにあったなら、神様しか隠し場所を知らないよ。今度、神様に聞いておくから、今日は新しい下着を買いに行こう」

気の利いたセリフは言えないけれど
天気を変えることは出来ないけれど
彼女の表情なら、少しは変えることが出来た。

 
彼女のパンツがどうなったのかはわからない。
彼女の勘違いかもしれないし、本当に神隠しなのかもしれない。
僕らには、それを突き止める術も必要もない。

謎があるなら、謎をかすがいにしよう。

いつもより少し強く繋いだ手の中に、僕は謎や希望を詰め込んだ。

 
 
 
…………
………
……

 
 
 
──その頃、地球某所──

「どんな願いも一つだけ叶えてやろう」

「ギャルのパンティーおくれーーーーっ!!!!!」



穴二つ

管が一つ壊れてしまったので神主さんを訪ねることにした。
竹を調達する時はいつも神社の裏手にある竹林からと決まっている。
なぜか他の竹から拵えたものより管狐の馴染みが良いのだ。
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アブドミナル&サイ

今のぼくの状況を簡単に説明しよう。
手を頭の後ろに組んで、こめかみに銃口をつきつけられている。
なんともわかりやすい人質の姿勢だ。

たまたま公園で休んでいると、逃走中の犯人がやってきて、ぼくを人質にとった。
周囲にはたくさんの警察官、パトカー、野次馬で溢れている。
犯人が何をしたのかは知らない。というか、そんなことを気にしている余裕がない。
ぼくの心は千々に乱れている。今にも大声で叫びながら走り出してしまいたい気分だ。
しかし、それも出来ない状況だ。一体ぼくが何をしたというんだ。どうしてこうなった。
考えれば考えるほど、思考は一つの結論に収斂していく。

死にたい。

それしかない。いっそ殺してくれ。
どうしてこうなった。
どうしてこうなった。
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