秘密

父親が働いてる姿を見たことがあるだろうか?
自営業ならまだしも、一般的なサラリーマンなら大半の人は見たことがないと思う。
僕だってそうで、父が会社で何をしているか知らない。
どんな仕事なのか、どんな態度なのか、昼休みに何をしてるのか、義理で配られるバレンタインチョコをどんな顔で受け取るのか、何一つ知らない。興味もなかった。
家族とはいえ知らないことは多く、家族だからこそ無関心だった。

僕の父は世界中を飛びまわっていて、特に最近は忙しいようでほとんど家にいない。
プライベートと仕事なら圧倒的に仕事に比重が傾いている状態だ。
それなら仕事している時の父は、自宅にいる時の父よりも素に近いのかな?

……どうでもいいや。

今日はいつも以上に無関心で、それはきっと今朝見た夢が地球滅亡というスペクタクルなものだったからだろう。
本当に滅亡するなら、僕は宿題をしなくてもいいのにな。
父に仕事があるように、僕にも宿題という仕事がある。
期限もあれば罰もあり、無いのはやる気と英和辞書だけだった。
辞書は父に貸したままで、僕は早急にそれを取り返さないといけなかった。

父の部屋へ行き、無造作にドアを開ける。
ノックをしなかったのは家族ゆえの遠慮の無さではなく、僕にマナーが無いわけでもなく、どうせいないだろうと思ったからだ。
いないと思ったのにいた時の驚きは、トイレで考えればわかってもらえると思う。
しかもそれが、真っ赤なド派手スーツで金色のハットを被り、顔面白塗りで仮面をつけた父親だったらどうだろう。
僕は時が止まったかのように身体も思考も停止し、しばらくして「今日はハロウィンじゃなくてバレンタインだよな」と日付を確認するのがやっとだった。
普段の父からは想像も出来ない格好だったが、なぜかそれが父であることを疑わなかった。
父は突然現れた僕に動じず、不敵な笑みを浮かべるだけだった。
少しずつ動き出した思考は、僕に一つの結論を告げる。

「父さんは……トランプマンなの?」

目の前にいるのは紛れもなくトランプマンであり、父だった。
父親が働いてる姿を見たことがあるだろうか?
僕はどうやら知らず知らずのうちに見たことがあったようだ。
僕の問いに対して父はすんなり肯定した。
そしておよそ正常とは思えない一言を口にした。

「お前もトランプマンだ」

またしても僕の時は止まり、再び動き出した思考で最初に考えたことは「なるほど……。ザ・ワールドか」だった。

「僕がトランプマンだって?」

蛙の子は蛙とでもいいたいのか? トランプマンの子はトランプマン?
僕はエンディングで突如「アンパンマンはきみっさー♪」と身に覚えの無いことを宣告された時の気分になり、アンパンよりはトランプの方がまだカッコイイかな……なんて思ったりした。

「トランプマンは一人じゃない」
「どういうことさ?」
「世界中にトランプマンはいる。そしてお前もこれからなるんだよ」
「悪い物でも食べたの?」
「トランプマンとは組織の名称およびそれに属する各人を指す」

顔を隠しているから複数人で演じることは可能だろう。でも……

「なぜ僕が? マジックなんてできないよ。スタンドだって使えない」
「お前にも”能力”があるからだ」

それがスタンド能力でないのは確かだったけど、何の能力かはわからなかった。
僕はどう反応して良いかわからず、とりあえず眉間にシワを寄せる。
父は説明してくれた。トランプマンの真実を。

トランプマンとは簡単にいうと能力者を集めた組織であり、能力は個人で違うがテレパシーや透視、サイコキネシスなどいわゆる超能力と呼ばれる類のものであるという。テレビでよくやる手から火を出すのはマジックの場合もあるし、本当にパイロキネシス能力者が発火させている場合もあるらしい。
そんな超能力の一種が僕にも備わっているらしく、父の中では僕が既に組織に入ることを決定付けられているようだった。ふざけないでほしい。僕には既に宿題という仕事があるんだ。
しかし、父の一言で僕の時は三度止まった。

「地球の未来がかかっているんだ」

組織の目的は地球を救うこと。
現在、地球には危機が迫っていること。
それが理由で毎日忙しく世界中を飛びまわっていること。
父は現状を解りやすく説明してくれた。

「僕には……どんな能力があるの?」

もう無関心ではいられなかった。
父は突如手から火を出してみせ、こう言った。

「予知能力だよ」



─────────。

目が覚めた。
カレンダーを見ると×印は13日までついていた。
本棚を見た。英和辞書は無かった。

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